協力雇用主の声
保護司×協力雇用主×BBSの人的資源をとことん活かす
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宮口茂樹氏(沼津市大岡)
東海ガス圧接株式会社代表取締役社長
沼津地区協力雇用主会会長
保護司
静岡県就労支援事業者機構支援スタッフ
東海ガス圧接株式会社外観 従業員は朝、事務所に集合し、日中は各地の工事現場に赴く。
御社は昭和29年創業とうかがいました。
まずは事業内容を教えてください。
ガス圧接とは鉄筋構造物の継手のこと。鉄筋に熱と圧力を加えることで、鉄を溶かすことなく一体化させる工法を専門にしています。同業者は静岡県内でも5~6社程度というニッチな業界です。コロナ禍の影響で厳しい景況ですが、もともと特許技術を多数保有しており、耐震補強工事等での需要も安定しています。会社は父が昭和29年に創業し、私は昭和51年(1976)、30歳のときに二代目を継承しました。
多くの特許技術を持つガス圧接器具
協力雇用主になられたきっかけは?
創業時、戦後の高度経済成長期で建築業は人手がいくらあっても足りず、様々な経歴を持つ、いわゆる“荒くれもの”も雇用していました。協力雇用主の制度がない時代でしたが、父は保護司もしていたので、事情を抱える従業員の面倒をよく見た。そんな環境で事業を継承しましたので、自分も迷うことなく協力雇用主となりました。昭和55年(1980)のことです。昭和60年(1985)には、先輩保護司の勧めで保護司資格も取りました。
協力雇用主と保護司の活動にどんな違いがあるのでしょうか?
保護司は「保護観察」を受けることになった対象者の生活を見守り、相談に乗ったり指導をします。もちろん守秘義務を遵守します。活動は基本的に月に2回の面談ですね。
一方、協力雇用主は文字通り雇用主と従業員という関係で、毎日顔を合わせるわけです。社員数の多い大企業では目が行き届かないこともあると思いますが、当社は社員17人という小規模ですから、私が全員の顔を毎日確認することができます。17人のうち3人が元対象者ですが、彼らは今、会社の立派な戦力になっており、私の方が助けられていると実感する毎日です。
うまくいく秘訣は何かありますか?
うちでは私が保護司であることを他の社員が理解し、対象者とも胸襟を開いて大っぴらにつきあえる社風が先代の頃から出来ていると思います。雇用主自身が、保護司という更生保護のプロであることは、対象者に安心感を与え、相談しやすい・受けやすい関係が持てる。ですから保護司で会社経営者という人にはぜひとも協力雇用主会に入会していただきたいし、協力雇用主会の中でこれぞという若手会員に保護司になることを勧めています。
沼津地区協力雇用主会会長として、
就労のマッチングにも尽力されていますね。
就労支援は、あっせんの依頼を受けて3~6カ月のうちにマッチングを行い、就職した後も3カ月間、定着支援を行い、無事定着を見届けて初めて“成立”となります。当地区では2020年11月時点で64件のマッチングを成立させており、今現在、7名のあっせん依頼を受けています。依頼のあった対象者すべてに希望の職種を紹介できればベストですが、雇用主は対象者の犯罪歴を気にしますから、丁寧なマッチングが必要ですね。
どんな点に留意されていますか?
当人が経験のある職種や知人がいる企業、対象者の雇用経験がある企業を優先的に勧めます。対象者は履歴書の書き方に不安を持っていますので、ケースバイケースで、「すべてを洗いざらい正直に書かなくていい」という助言もします。雇用主会が扱うケースでは、当人が匿名希望の場合、静岡保護観察所も匿名扱いにしてくれますので、まずは「こういう人がいるんだけど」と企業側に打診し、なんとか面接まで持っていきます。
対象者が個人的に直接ハローワーク等で就活をする場合もありますが、服役経験があることを面接で素直にしゃべってしまい、不採用になるケースも少なくありません。ハローワーク等の公的就労支援機関と当機構の就労支援スタッフ、そして保護司がきちんと情報共有し、連携を進めていくべきだろうと思っています。
沼津地区協力雇用主会では県東部地域で
さまざまなボランティア活動も行っているそうですが。
BBS(Big Brothers and Sisters Movement)と協働で活動しています。BBSは様々な問題を抱える少年少女たちを、兄や姉のように身近な立場で接し、彼らの成長を手助けする若者たちの全国組織。主に大学生が中心ですが、沼津地区には小・中・高校生によるBBSジュニア会もあり、沼津駅周辺で清掃活動を行ったり、スタッフに保護司がいる社会福祉法人あしたか太陽の丘で草取りや納涼祭のボランティア活動を行っています。ボランティア参加証明書を学校に提出すると、学校の評判も上がると聞いています。10代のうちから地域活動を通して社会貢献や更生保護の価値を知ることは大変意義があり、ゆくゆくは保護司や協力雇用主になる人材が現れることを心から期待しています。
沼津地区BBS会とJR沼津駅前を清掃ボランティア
静岡県就労支援事業者機構の就労支援スタッフとして、
今後取り組む課題は?
各県の機構代表が集う全国大会に参加すると問題になるのが、企業側の意識です。協力雇用主には雇用が成立してから1年間、国から一人あたり72万円の支援金が支給されます。県機構も支援制度を設けていますが、これはもちろん、対象者の身分保障―生活支援や職能取得等に活用すべきものです。しかしながら、1年後、支給が終わった時点で対象者を退職させるような雇用主も現実にいて、まるでそれをビジネスにしているようなケースも見受けられます。少なくとも静岡県においては、機構の理念を正しく理解し、更生保護によってこの地域が明るい社会となるよう、お力添えをいただきたいと願っています。
静岡刑務所で外部講師を務め、受刑者に立ち直りや社会復帰への心構えを説き続けてきた。 「会社の業績でもらった褒賞よりもこの表彰状のほうが嬉しい」と宮口氏。
ありがとうございました。
インタビュー・文・写真/鈴木真弓
フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は地酒、農業、禅文化、福祉ほか