認定特定非営利活動法人 静岡県就労支援事業者機構

協力雇用主の声

金原明善を生んだ浜松の更生保護の灯をつなぐ

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富田 三代治氏(浜松市中区)

富田電気工事株式会社代表取締役社長

浜松地区協力雇用主会会長

元保護司

浜松地区協力雇用主会は平成元年に発足し、30余年の歴史を刻んでこられましたね。

ご存知のとおり、浜松は、更生保護の道を切り開いた先駆者・金原明善翁(注)の出身地です。翁が始めた更生保護活動が、戦後、関係法令へと整備され、日本の刑事政策の一翼を担う現在の更生保護制度へと発展し、翁の尊い精神が、連綿とこの地域に根付いてきました。
浜松地区協力雇用主会は平成元(1989)年9月、会員21社によってスタートしました。私は保護司の活動を通してお誘いをいただいてこの年に入会し、事務局のお手伝いや会長の補佐をしてきました。初代会長の故・田村愼一氏は、ロス疑惑事件を捜査したロス市警刑事ジミー・サコダ氏や中日ドラゴンズの元投手三沢淳氏を講演会講師に招くなど、会の発展に大いに寄与していただきました。

現在は会員数も64社と、盤石の組織となったようですが。

会員が増えた理由としては、まず令和2(2020)年に浜松市の事業加点評価の対象になったことが挙げられます。いわゆる公共事業の入札における優遇措置ですね。雇用主会の会員は一般企業ですから、経済的メリットが得られるというのはやはり重要です。
また平成21(2009)年に静岡県就労支援事業者機構が設立され、人的・物的支援を得られたことも大きいと思います。浜松市は区が多いため、それぞれの地域の保護司に入会してもらい、会の存在を隅々まで浸透させていくことも大事で、そのための人手はいくらでも欲しい状況です。
公共事業入札の優遇措置は、本来であれば、入会後、3~5年の経験・実績のある会員を対象にすべきでしょうが、会員すべてを対象にするよう浜松市に働きかけてもらいました。優遇措置の対象については今後も検討していきます。

平成25(2013)年に会長に就任されて以来、とくに力を入れているテーマはありますか?

雇用主会に対する理解を、関係先にも会員自身にも、もっと深めてもらいたいと思っています。
関係機関の中には、当会を、保護司会の配下の集まりと誤認しているところもあります。浜松市が政令指定都市になってから、とくに保護司会と差を付けられていると痛感することが多いですね。公共の建設事業を管轄する浜松市財政課の皆さんは、もちろん理解し、協力もしてくれますが、当会としても、30余年の活動実績や会員64社という規模をもっと強くアピールしなくては、と思っています。

平成30年10月 浜松地区30周年記念式典で挨拶する富田会長

具体的にどのような理解が必要だと思われますか?

公共事業を請け負うには、建設工事関連の一級免許資格者の有無など一定の条件があり、資格を持たない対象者は作業現場にも入れない、というケースがあります。
トラックから荷物を下ろしたり、現場まで運ぶといった補助作業は、資格がなくても十分出来ますし、対象者には安全講習等を受けてもらう等、手元で責任を持って教育していますから、そのあたりを考慮してほしいですね。
建設業は慢性的に人手不足で、補助員のニーズはつねにあります。また、対象者の多くは生活保護を受けながら、自分に出来るなら補助アルバイトでも何でもしたいと願っています。5年程度の勤務実績があれば、資格なしでも補助員として現場に入れるようになればありがたい。

対象者が置かれた環境にも、理解すべき点がまだまだ多いようですね。

浜松地区には、静岡市の『少年の家』や『静岡勧善会』のような出所後の“居場所”がありません。肉親が引き受けを拒否する例も珍しくなく、出所後の生活拠点を探すのに一苦労です。県住宅供給公社の空室は生活保護対象者に貸し出していますので、これが利用できればと思うのです。
とにかく、住まいが決まらなければ就職活動はできません。面接を受けてもすぐに合否の返事がもらえるわけではないので、その日その日を暮らす場所が必要なのです。このような状況を理解し、福祉連携的支援を進めることが大事だと考えます。

会長ご自身は、対象者にどのような思いで向き合っておられますか?

少年の場合、相対的に見て、祖父母がいる子は更生が早いように思われます。一方で、両親から虐待を受けた経験のある子は難しい面もありますね。どちらにしても、人の成長は、ひと目では判断できません。見た目がぶっきらぼうで挨拶もろくに出来ない、という子でも、こちらが思いやりを持って接していると、教えたことは身に着き、きちんと動き、伸びていく、ということがあります。子育てと同じで、時には目をつむって見過ごしてやる、ということも必要じゃないでしょうか。
 うちの会社で浜松市役所内のトイレ工事を請け負ったのですが、工事終了後、トイレ内の清掃や敷地内の枝切りといった細々した補助作業を一生懸命やっていた子の姿が、市の職員の眼にも留まったと思います。そういうところから、少しずつ周囲の理解が進んでくれたらと願っています。

富田電気工業では他にどのような事業を請け負っていますか?

建造物の電気工事関係全般とそれに付随する作業です。公共施設をはじめ、高速道路やトンネル、製造工場、大学等、さまざまな受注先があり、高速道路では周辺の芝刈り作業も請け負います。コロナ禍の影響は少なくありませんが、おかげさまで固定した業務が途切れずに来ています。事業の安定継続こそが、更生保護活動に必要不可欠です。

協力雇用主会の事業はコロナ禍のもとでは制約も多いと思いますが、今はどのような活動をされていますか?

2021年は6月に総会を開催しました。研修会は、実際に対象者を受け入れた企業の実例や、問題が起きたときの対処方法を学ぶ重要な活動として位置づけ、これまで年3回開催してきましたが、昨年来、リアルでの開催は難しい状況のため、浜松市保護区保護司会や県機構の会報等を配布しています。
 会の存在価値をもっとアピールしようと、2021年に会のホームページを開設しました。会員の中には、協力雇用主になっていることを積極的にアピールしたがらない人もいますので、会の活動が社会に広く認知され、理解が進むよう努力を続けていきます。
 更生保護に関する国からの要請事案も増えているので、機構とも協力しながら鋭意努めていきたいと思っています。

ありがとうございました。

(注)金原明善翁と更生保護
明治時代、静岡監獄に多くの看守が手を焼く問題受刑者がいたが、当時の副所長(川村矯一郎)の熱心な指導が功を奏し、10年の監獄生活を終えた。
しかし、監獄を出てわが家に戻ってみると、もはや父母はなく、妻も他人と再婚しており、寝るに宿なく、食するに一文もないという状況に。村内の親戚を訪ねて一夜の宿を乞うが、「お前のような悪者は泊めるわけにはいかない」と断られ、せめて一晩軒下の隅なりと頼んだが追い返されてしまった。副所長との約束で二度と悪いことはできず、思い余った彼は、池に身を投じ、自らの命を絶ってしまった。
金原明善翁はこの話を聞き、「改心して監獄を出た者を社会の中でしっかり保護する方法を考えなくてはならない。」と思い立ち、明治21年、「静岡県出獄人保護会社」(現・更生保護法人静岡県勧善会)を設立した。これは日本で最初の更生保護施設といわれている。

鈴木真弓

インタビュー・文・写真/鈴木真弓

フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は、地酒、農業、禅文化、福祉ほか

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