認定特定非営利活動法人 静岡県就労支援事業者機構

協力雇用主の声

「人は変われる」「社会を変えられる」その一歩を示す。

File.4

中村すえこ氏

作家、映画監督

静岡県就労支援事業者機構が2021年12月に開催した就労支援研修会では、女子少年院を退院した4人の少女の姿を追ったドキュメンタリー映画『記憶-少年院の少女たちの未来への軌跡』の上映を行いました。終了後は監修・監督を務めた中村すえこ氏をお迎えし、トークイベントを開催。質疑応答形式で、映画製作の過程や出演者のその後、少年非行の原因分析や更生へのアドバイスをお話いただきました。
トークイベントの内容を編集し、ご紹介します。

(中村すえこ氏 プロフィール)
15 才でレディースの総長になるなど、自らの波乱の半生を綴った『紫の青春 恋と喧嘩と特攻服』で 2008 年に作家デビュー。少年院経験者自らによる少年院出院者の社会復帰を支える NPO 法人「セカンドチャンス!」の創設メンバーとなり、自らの経験をもとに講演活動などを続け、その活動様子が TBS「報道特集」他各メディアで特集された。  
2011 年 5 月に著書が『ハードライフ〜紫の青春 恋と喧嘩と特攻服〜』として映画化。2019 年に完成した映画『記憶-少年院の少女たちの未来への軌跡』の監修監督を務め、上映会とそれに伴うシンポジウムのほか、法務省、弁護士会、保護司会などのイベントに数多く参加している。また2015年に全国のすべての女子少年院の訪問を達成し、現在は、すべての男子少年院の訪問達成を目指している。
2020 年 11 月に自身 2 冊目の著書『女子少年院の少女たち-「普通」に生きることがわからなかった』が上梓された。

-最初に、この映画を作ろうと思われた理由についてお聞かせください。

 私が立ち上げに参加したNPO法人セカンドチャンス!という団体は、少年院出院者の自助グループで居場所づくり=交流会活動を行っています。また全国の少年院に出かけて「人は変われる」と呼びかける講話活動を続けています。10代の頃、暴走族がきっかけで少年院に入った自分としては、暴走族時代は全国制覇できなかったが、少年院訪問で全国制覇できた!といったところです(笑)。
 2015年に全国すべての女子少年院を訪問し終わった時、感じたのは「この子たちは加害者である前に被害者だったんじゃないか」という思いでした。彼女たちが少年院に入って気持ちを切り換え、再び社会へ戻った時に、社会のほうで「少年院上がりの社会のクズ」というような見方をしたままでは、彼女たちが更生するのは難しい。ならば社会を変えるしかないと思いました。
 社会を変えるためにどうしたらいいかを考える過程で、映画を作って多くの人が観て意識を変えてもらうことができたらと思い立ちました。彼女たちが罪を犯した背景に何があるかを知ってもらうことで彼女たちを理解し、少年犯罪を未然に防ぐことができるようになれば・・・という思いで映画作りに臨みました。

-映画を拝見すると取材にはかなりのご苦労があったかと思われます。

 映画は2019年に完成しましたが、構想には6年掛かりました。最初に映画を作ろうと思い立ったとき、周囲からは「それは無理」「少年院の中にカメラを入れることは不可能」と反対されました。私自身は「必ずできる」「今はタイミングが悪いだけ」と思っていて、まず法務省に掛け合ってみたら、意外にも、製作資金は出せないが撮影はOKという返事だったのです。
 ならば資金集めから始めようと各地を駆け回りました。「そんな眉唾モノにカネは出せない」とも言われましたが、絶対に出来ると確信し、構想4~5年目にクラウドファンディングによる資金調達を始め、周囲に「中村すえこ、本当にやるんだ」と理解してもらったのです。
 誰一人出来ると思わなかった協力者ゼロの状態から始めたわけですが、いざ撮影を始めると、法務省がOKを出しても、現場は「来て欲しくない」という反応。何度も少年院に足を運び、コミュニケーションを取りながら指導教官の先生方に制作意図を理解していただきました。

-映画の内容は大変リアルでした。映画の原作本についてもご紹介いただけますか?

 本を書く予定はなかったのですが、ちょうど映画が完成した年、大学4年の卒論を書き上げたところで、この際、これまでの活動をまとめておこうと思っていた矢先に出版社からお話をいただいたのです。
 映画の内容について書こうと思ったのは、映画ではありのままのリアルを描き、観た人に判断してもらいたいと思って、あえて自分の主観は入れなかったからです。それでも取材中には思うこと感じたことは多々ありました。
 映像の中に、母親が薬物依存だった少女が登場しますが、彼女にはとても感情移入してしまい、「こんな親じゃ可哀想・・・と思ってしまった自分は、人様の親をこんなふうに見ていい立場だろうか」と葛藤したりしました。パパ活をやっている少女については、自分の若い頃は「女は硬派じゃ無ければダメだ」という時代でしたからまったく理解できなくて、彼女たちを通して大きな問いや気づきがありました。そのことを知ってもらいたくて本に書いたのです
 映画の最後は、佳奈ちゃんという少女が所在不明のまま終わっていますが、その後、追跡取材をして本に書いていますので、ぜひご覧になってみてください。

-現在は第2弾を制作中ですね?

 第2作として男子少年院の取材をスタートしました。全国47施設のうち残り10を切ったところで、まもなく全国制覇します。すべて自腹で行っています。
 製作自体は1作目で支援してくださった方、こういう講演の場を通して支援してくださる方のおかげで撮影をスタートすることができました。撮影地は東京の少年院と、少年院最後の砦と言われている少年院の2施設です。2021年4月から撮影スタートする予定が、コロナの影響で先に延びまして、2023年の「社会を明るくする運動」月間に間に合うように鋭意進めています。

-新作も大いに期待しております。それでは会場の皆さまからのご質問をお受けします。

令和3年12月2日開催就労支援研修会

-映画に登場する榛名女子学園は監督のご出身でもありますね。映画には4人登場しますが、実際に取材されたのは何名ですか?

 7人ぐらいですね。撮影当時、30人の入院者がいて、一人も許可が取れない可能性もありましたが、半数以上が承諾してくれ、その中から学園側と相談し、4人に決めました。

-佳奈さんの出演は監督の意向ですか?

 ドキュメンタリーなので、すべて現場で起きたことを撮影しています。たまたま4人の中で、出院後に追跡取材できる子が佳奈ちゃんでした。佳奈ちゃんは地元の大阪保護観察所と職親プロジェクトの受入先の協力を得て撮影できました。
 ギリギリの資金で制作していたので、カメラは私一人で回しました。佳奈ちゃんが職親オーナーから「出て行け」と言われた時は、「せっかく撮影しているのに、こんな展開になってしまって、この先どうしよう」と混乱したことを今でもよく覚えています。
 翌朝、佳奈ちゃんの保護司や職親企業のオーナーが集まって話し合う場面も、「撮影するから集まって」ではなくリアルの状況です。これを映画のラストシーンにしました。
 支援者が苦悩するシーンをエンディングにしていいかどうか悩みましたが、更生保護って365日24時間休みなしですよね。お金があれば、人手があれば解決するという問題でもない。いろいろなことを感じ、考えさせられるシーンでした。
 制作スタッフからは「このシーンは当局からダメ出しされるんじゃないか」「保護司さんの顔にはモザイク入れた方がいいのでは?」と言われました。「やはりラストシーンは希望が持てるようにしたほうがいい」という意見もあり、監督である私が榛名女子学園で制作意図を語るというエンディングを想定し、実際に撮影もしました。その語りのシーンを撮って編集していた時に、佳奈ちゃんから消息を知らせる連絡が来たのです。それを本に書きました。

-少年少女が非行に走る根本原因は家庭の貧困にあると思われますが、監督が実際に取材されて、いや違う、こういう原因もあるという事例がありましたら教えてください。

 貧困もその一つだと思います。心が貧しくなっていくことで思いやりがなくなります。私自身、子育て中、忙しくて子どもを見なくてはいけないのに、見えないふりをしてしまう時もあります。映画の中では「ボタンの掛け違い」という言葉を使いました。本当は、親はこう思っている、子どもはこう思っているのに、ちょっとのズレからかみ合わなくなってしまうということはあると思います。
 私が非行に走った時、家は貧しく、父と母は不在で、夜は一人きりで過ごしていました。では恵まれた家庭環境だったら非行に走らなかったかといえば、そうとも言い切れません。映画に出てきたパパ活の少女の家はとても裕福でした。欲しいものと与えるものが、親と子、学校と生徒が違うことでズレが始まるように思います。
 お金だけの問題ではないと思いますが、お金の問題も当然あると思います。お金がないから親は働きづめで精神的にも余裕がなくなり、子どもと向きあうことがなくなる。
 再犯をする子は受け入れる社会がないから、とも感じています。

-コロナ対策の一環として、国が18歳以下の子どもがいる家庭に10万円の給付金を出すことに関してはどう思われますか?

 お金をいただけるのは正直うれしい。しかし、給付金は一時的なものであって、ずっと支援できるわけではありません。私は、お金よりも、生きていくためのスキルを付けさせて欲しいと思います。目先のお金より、本当に必要なのは知識であり勉強であり学歴だろうと、個人的には思っています。

-映画を拝見し、日本の児童福祉政策にいかに不備が多いか、と実感しています。少年院のワーカーさんや支援者とお話される機会もあったかと思いますが、子どもの児童福祉面の観点から、発達障害や生育環境について何かお話はされましたか?

 現在、男子少年院で撮影していますが、2割ぐらいは発達に問題を抱えている子です。出来ればそういう子も撮影したいですね。
 東海テレビ制作の『ヤクザと憲法』というドキュメンタリー映画では、暴力団に入った若い衆で、どうみても発達に問題がある子が登場します。彼を受け入れる場所は暴力団しかなかったのです。これは大きな社会問題ではないでしょうか。
 少年院の中では、入院者がどういう生育歴にあったかは多少、口頭で教えてもらいましたが、情報共有はされません。職親プロジェクトで引き受ける方々も同様だろうと思います。
 発達障害のせいで、生活する上で常識的なこと・大切なことに気づかずに来たという子と、家庭の中で大事な事を教えてもらっていなくて理解できない子もいます。たとえば「玄関で靴を揃えてね」と言われ、かかとを揃えて靴を履いたまま上がった子がいました。玄関では靴を脱いで上がるということを知らなかったのです。そういう環境で育った子には、きちんと教えてあげればいいだけであって、単に「常識知らず」と非難するのは間違っています。どんな少年たちも、知らないことを教えてもらって生きられる社会なら、もっと生きやすい社会になると信じています。

-今日はありがとうございました。

鈴木真弓

インタビュー・文・写真/鈴木真弓

フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は地酒、農業、禅文化、福祉ほか

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