認定特定非営利活動法人 静岡県就労支援事業者機構

協力雇用主の声

「誰一人取り残さない」ー全国に先駆け、SDGs宣言した協力雇用主会

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茶山 弘氏(静岡市葵区)

静岡県就労支援事業者機構 顧問

静岡地区協力雇用主会 会長

元保護司、静岡県保護司友の会会員

茶山建設工業(株)代表取締役

―静岡地区協力雇用主会は2000(平成12)年に発足し、一昨年、20周年の節目を迎えました。茶山会長は発起人として会の設立に尽力された立役者ですね。

 私は建設事業を行う傍ら、平成元年に静岡県内初の日本語学校を開校しました。開校の準備に奔走する中で、多くの経済人と交流を持ちました。また長年、消防団や国際友好親善の活動に関わって、地域に人脈を持っています。元来、世話好きな性格なんですよ。(笑)。
 この活動との接点は、会発足の4~5年前、市会議員で保護司の帯金孝快先生より対象者の引き受けを依頼されたのがきっかけでした。受け入れた対象者は社内でトラブルを起こし、辞めてしまったのですが、事前に社員にきちんと説明をし、仲間同士でコミュニケーションを取る努力をすべきだったと反省しました。
 地区の協力雇用主会は当時、旧清水市にあって静岡市にはなかったものですから、海野工業㈱社長の海野治男さんと共に設立準備に取り掛かりました。私が消防団の仕事で多忙なため、初代会長は海野さんにお願いし、私は事務局長として実務を担当することになりました。

―会員はすぐに集まったのですか?

 26会員でのスタートです。主に、同じ建設事業者の中からこれという人物に声を掛け、集まってもらいました。当時は矯正施設出所者の就労支援が社会的に認知・評価される時代ではなく、雇用主はどちらかと言えばこの活動を隠したがる傾向にありましたので、会では、会員になってくれた協力雇用主が自信を持ってこの活動に取り組める環境づくりを心がけました。活動としては定期的な研修会、更生保護関連団体との連携等を行っています。

―会長ご自身、2004(平成16)年に保護司の委嘱を受けましたね。

 私と会員の谷津保夫さんが保護司になり、協力雇用主との初の兼任となりました。対象者の気持ちをより理解するためには、雇用主であると同時に保護司であることが必要だと痛感していたからです。協力雇用主会としても、保護司会との連携が対象者の更生に必要不可欠です。現在は会に9名の兼任保護司がいて、保護司会とも定期的に交流の場を設けています。

―保護司会以外の更生保護関連団体との連携も進めていますね。

 そうですね。2005(平成17)年に静岡市が政令市に移行し、保護司会と更生保護女性会が葵区と駿河区にそれぞれ分離独立しました。私は、協力雇用主会は分離せず、静岡地区としての現状維持を強く進めました。その頃から、保護司会渉外委員会や更生保護女性会との交流も始まりました。BBS(Big Brothers and Sisters Movement=青少年の更生保護を支える若い世代のボランティア団体)との連携も進めています。私の妻がバーベキューパーティを準備してくれて、対象者も参加し、和気あいあいの交流もできました。しかし、3年前に妻が亡くなり、恒例行事だったバーベキュー交流会も行われなくなりました。

―静岡で就労支援への風向きが変わったと感じられたのはいつぐらいですか?

 2009(平成21)年あたりからでしょうか。この年、1月に静岡県更生保護協力雇用主会、12月に静岡県就労支援事業者機構が発足しました。全国的にも同じ流れだったと思います。翌2010(平成22)年からは甲府刑務所の視察を皮切りに、長野、笠松(岐阜)、府中、横浜、黒羽(栃木)、三重、名古屋など関東~中部圏の刑務所を訪問しています。県レベルの窓口が出来たことで、他県の関連団体との連携がしやすくなったと思います。

―全国の刑務所の視察ではどんな点に注目しますか?

 やはり矯正教育ですね。対象者がどんな教育を、どんな気持ちで受けてきたのか、出所後の彼らを引き受ける我々としてはとても参考になります。コロナ禍でまだ視察に行けていないのですが、初犯の交通事犯受刑者が収容されている千葉県の市原交通刑務所はぜひうかがいたいと思っています。矯正教育がユニークで、金属・農業・その他3業種と8科目の職業訓練を行い、開放的処遇として外部通勤作業にも取り組んでいるようです。事業部作業として椎茸の栽培作業も行っており、矯正展などで販売されています。
 市原に限らず、各刑務所では職業訓練によって作られた産品を販売しており、「静岡地区協力雇用主会の皆さんはたくさん買ってくれる」と歓迎されるんですよ(笑)。

―静岡地区協力雇用主会独自の取組みは?

 2014(平成26)年に入札資格優遇制度を導入しました。公共事業の入札に参加する際、当会員は審査で10ポイントが加算されるというものです。会員の6割は建設業者で、何らかの公共事業に関わっていますから相応の効果があり、会員増強にもつながりました。
 協力雇用主会としてSDGs(国連が提唱する持続可能な開発目標)宣言を行ったのは、当会が全国初。静岡市自体が自治体としていち早く宣言したのに追従しました。

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―今後の目標は?

 「誰一人取り残さない」というSDGsの理念にのっとって、ひきこもりの若者~中高年などを含めたすべての就職困難者の支援に取り組みたい、と考えています。身内のひきこもりで悩んでいる家族は、「何か起きてからでは手遅れになる」「本人の気持ちを発散できる場所が必要」と切実な気持ちでいますから、会としてもできる範囲で支えていきたい。実現できたら、これも協力雇用主会としては全国初の試みとなります。
 会員数は現在77会員ですので、100会員を目指したいところです。

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―最後に、ご自身の就労支援に対する思いを教えてください。

 自分も10代の頃は周囲に反発し、さんざん迷惑を掛けたものですが、世話好きの近所のおじさんや面倒見のいい先生のおかげで何とか立ち直ることができました。立ち直りの機会が見つからず、もがいているすべての若者に、「人は、人によって変われるよ」と伝えたいですね。

-ありがとうございました。

鈴木真弓

インタビュー・文・写真/鈴木真弓

フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は地酒、農業、禅文化、福祉ほか

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