協力雇用主の声
静岡刑務所と企画展『三畳画廊』
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令和6年度就労支援研修会(矯正施設視察研修)レポート
研修実施日:令和6年12月13日
機構が毎年度開催する就労支援研修会の矯正視察研修。今年度は12月13日に26名が静岡刑務所を訪問し、入所者の生活や職業訓練、改善指導、教科指導、出所者に向けた就労支援の取組み等をうかがいました。(同行取材レポート/鈴木真弓)
静岡刑務所の受刑者構成と刑務作業
静岡刑務所は、26歳以上の日本人男子受刑者のうち、実刑期10年未満で犯罪傾向の進んでいない人=主に初犯を中心に、外国人男子受刑者、未決拘禁者を含む約430名(令和5年度時点)を収容しています。
執行刑期は約半数が2~4年未満。主罪名は窃盗22%、詐欺12%、強姦等11%、覚醒剤10%で、年齢は30~40代が中心です。最高齢は88歳。
対象者は、裁判で刑が確定した後、受刑者として入所し、処遇について丁寧に調査します。処遇審査会での検討を経て、対象者の矯正方針に基づいた処遇を実施。釈放が決まれば釈放前指導等を行い、釈放(仮釈放、満期釈放)となります。
受刑者は月曜日から金曜日まで、刑務作業に従事します。刑務作業は以下のとおり。
①生産作業・・・各種製品の製作、加工等。静岡刑務所では木工製品、印刷物、洋裁、金属加工等の製作に力を入れており、刑務所作業製品展示場にて一般向けに販売するほか、ふるさと納税の返礼品にも採用されています。売上金は国庫に帰属となります。
②自営作業・・・炊事、洗濯、清掃等、刑務所を運営するために必要な作業。
③職業訓練・・・全国7箇所の刑務所・少年刑務所で実施する資格取得のための特別な職業訓練。静岡刑務所ではフォークリフト運転科、ビル設備管理科を設け、希望する受刑者は、適正や刑期等の条件をクリアすれば受講できるようになっています。
刑務作業を行った受刑者には、全国平均で一人1カ月当たり4,600円程度の作業報奨金が支給されます。社会復帰後の更生資金にする目的のため、釈放時に支給されますが、在所中においても、日用品や書籍等の購入、親族の生計の援助、被害者に対する損害賠償への充当等にも使用可能です。
社会復帰に必要不可欠な改善指導
刑務所内では、作業のほか、改善指導にも重点を置いています。
改善指導とは、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培い、社会生活に適応するために必要な知識や生活態度を習得してもらうこと。二種類あります。
① 一般改善指導・・・講話、運動会等の行事、面接、相談助言等により、規則正しい生活習慣や健全な考え方を身に着けてもらいます。静岡刑務所ではアルコール依存回復プログラム、暴力防止プログラム、窃盗再犯防止指導等も行っています。
② 特別改善指導・・・薬物依存等、特定の事情により、改善更生や社会復帰に支障がある受刑者に対し、集中指導を行います。静岡刑務所では、外部の弁護士、宗教家、臨床心理士等の協力のもと、以下の特別改善指導に注力しています。
〇薬物依存離脱指導
〇性犯罪再犯防止指導
〇被害者の視点を取り入れた教育
〇交通安全指導
〇就労準備指導
増加傾向にある福祉的要支援
基礎的な学力が欠け、改善更生や円滑な社会復帰に支障がある受刑者には、義務教育レベルの国語、算数、社会を指導する教科教育を実施しています。
静岡刑務所の令和5年度出所者176人のうち、仮釈放は119人でした。
出所が決まった受刑者には、刑務所、保護観察所、公共職業安定所(ハローワーク)が連携して就労の確保に取り組んでいます。静岡刑務所でも対象者に対し、ハローワーク職員による職業相談、職業紹介を行うほか、高齢者や障害者等、適当な帰住予定先が見つからない対象者には厚生労働省管轄の「地域生活定着支援センター」を通じて、すみやかに介護医療等の福祉サービスが受けられる特別調整の手続きを行っています。
福祉的支援を要する対象者は、年々増加傾向にあります。
小学館集英社プロダクションの矯正プログラム
今回の訪問で最も印象的だったのは、刑務所の運営の一部を民間委託していたことでした。
公共サービス改革法に基づき、平成19年(2007)に全国で初めてPFI手法を活用した刑務所である美祢社会復帰促進センター(山口県美祢市)が開庁し、次いで、喜連川社会復帰促進センター(栃木県さくら市)、播磨社会復帰促進センター(兵庫県加古川市)、島根あさひ社会復帰促進センターが開庁するなど、官民連携による刑事施設の運営が進んでいますが、静岡刑務所でも平成22年(2010)より職業訓練、改善指導、給食等の一部業務を、民間事業者に委託しています。
令和5年度から10年間、企画系業務(作業、職業訓練、教育、分類)と収容関連サービス業務を委託したのは、㈱小学館集英社プロダクションでした。
1967年に設立した同社は、小学館の系列会社として教育事業とエンターテイメント事業を柱に事業展開中。”エデュテインメント“を理念に、学びに対して楽しさをプラスし、子どもから大人まで幅広い層に教育プログラムを提供。教材は認知行動療法や臨床心理学、健康科学等の専門家による監修を経て製作されており、怒りをうまくコントロールできない人や不安や憂鬱、集中力低下に悩む人のための「こころのトレーニング」や、脳を活性化させるためのドリル、働く意欲ややりがいについて考える「仕事ワーク」等、矯正教育に適した教材をそろえています。
企画展三畳画廊の取り組み
令和5年4月、静岡刑務所と小学館集英社プロダクションは、官民協働プロジェクト「ART FROM プロジェクト」をスタートさせました。受刑者が描いた書や絵画、造形作品等のアートを公共施設で展示し、受刑者の改善更生や社会復帰の取組み、多様性を知ってもらう機会を設けてきました。
令和6年11月から令和7年1月の3カ月間は、静岡刑務所内の現在使われていない独居房「三畳居室」をギャラリーに見立てて、『企画展三畳画廊』を開催。予約すれば誰でも三畳居室に直接足を踏み入れ、受刑者の生活空間を体感しながら、アート鑑賞を楽しめます。
作品の展示方法については、アーツカウンシルしずおかの助成を受け、常葉大学造形学部と挿絵画家山田ケンジ氏の協力のもと、三畳居室の空間を活かしたユニークな展示になっていました。
見学後の意見交換会では、開かれた刑務所の在り方や、受刑者の人格形成に寄り添う取組みに一定の評価がある一方、機構参加者より「刑務所は、本来、辛く厳しく、もう二度と戻りたくないと思わせる場所であったほうがよいのでは?」という問いかけもありました。
再犯防止に向け、社会全体の理解や寛容を醸成するこのような事業と、出所者の就労や生活に直接に携わる機構会員の思いに温度差があるのは当然です。それだけに、受刑者の改善更生に関わる人々が、つねに話し合い、シームレスな連携と情報共有できる場の設定が、いっそう重要になると実感しました。
インタビュー・文・写真/鈴木真弓
フリーライター
静岡市出身・在住
静岡県の地域産業、歴史文化等の取材執筆歴35年
得意分野は、地酒、農業、禅文化、福祉ほか